2026.08.24

系統用蓄電池とは|仕組み・収益モデル・導入リスクを解説


カーボンニュートラルの実現と電力の安定供給を両立するうえで、いま注目を集めているのが「系統用蓄電池」です。再生可能エネルギーの導入が拡大するなかで、その出力変動を吸収し、電力の需給バランスを保つ役割が不可欠になってきました。同時に、系統用蓄電池は複数の電力市場から収益を得られる新たな投資対象としても関心を集めています。

一方で、「系統用蓄電池とは具体的に何なのか」「家庭用の蓄電池と何が違うのか」「どのように収益を生み、参入にはどんなメリット・リスクがあるのか」といった点は、これから検討を始める方にとって分かりにくいのも事実です。

本記事では、系統用蓄電池の定義・仕組みから、市場の動向、ビジネスモデル、参入のメリットとリスク、そして参入のステップまでを、これから事業を検討する方の視点で体系的に解説します。

系統用蓄電池とは?家庭用・産業用との違いと市場動向

系統用蓄電池とは、電力系統(送配電網)に直接接続し、電力の需給バランスの調整を担う大規模な蓄電システムです。電力が余っているときに充電し、不足しているときに放電することで、系統全体の安定化に貢献します。「蓄電所」「系統用蓄電池システム(BESS:Battery Energy Storage System)」と呼ばれることもあります。

系統用蓄電池の定義と家庭用・産業用蓄電池との違い

蓄電池は、その設置目的と接続先によって大きく3つに分けられます。系統用蓄電池の位置づけを理解するために、家庭用・産業用との違いを整理します。

種類

主な接続先

主な目的

電力市場への参加

家庭用蓄電池

一般家庭(需要側)

自家消費・停電対策

不可

産業用蓄電池

工場・事業所(需要側)

自家消費・電気代削減・BCP

条件により可能

系統用蓄電池

電力系統に直接接続

電力市場での取引・系統安定化

可(発電事業者として)

家庭用・産業用蓄電池が「自分が使う電気を貯めて、自分で使う(自家消費)」ことを主目的とするのに対し、系統用蓄電池は電力系統そのものに接続し、電力市場での取引や系統の安定化を目的とする点が決定的に異なります。電気を「貯めて使う」装置という点は共通していますが、果たす役割と事業の性質が大きく違います。

なお、2022年5月の電気事業法改正により、出力1万kW(10MW)以上の系統用蓄電池から放電する事業が「発電事業」として位置づけられ、発電事業者として電力市場へ参加し収益化することが可能になりました。※1

系統用蓄電池が注目される背景

系統用蓄電池がこれほど注目される背景には、日本のエネルギーをめぐる構造的な課題があります。

第一に、エネルギー自給率の低さと、それに伴う経済安全保障上の課題です。エネルギー自給率は2023年度約15.3%、2024年度16.3%と、先進国のなかでも最低水準にあります。電源構成の約7割を火力発電が占め、その燃料となる石油・石炭・天然ガス(LNG)の多くを輸入に頼っているためです。燃料の輸送ルートは地政学的なリスクを抱えており、エネルギー安全保障の観点からも、国産エネルギーである再生可能エネルギーの拡大が重要になっています。※3 

第二に、再生可能エネルギーの出力変動という課題です。国の第7次エネルギー基本計画では、2040年に向けて再生可能エネルギーを主要な電源と位置づけ、その大幅な拡大を見込んでいます。※3しかし太陽光や風力は天候によって発電量が大きく変動し、とりわけ太陽光は晴れた日の昼間に発電が集中し、夜間は発電しません。発電量が需要を上回れば電気は余り、足りなければ不足します。この変動を吸収する仕組みがなければ、再生可能エネルギーを増やすほど系統は不安定になってしまいます。実際に、太陽光発電の多い地域では、発電した電気を受け入れきれず発電を抑制する「出力制御」が各地で発生しています。※4

第三に、発電に適した地域と電力を多く消費する地域とのミスマッチです。太陽光や風力のポテンシャルが大きい北海道や九州では、地元の需要を超える電力が発電され、余剰が生じます。一方、東京などの大消費地では需要が集中します。各エリアは地域間連系線で接続されていますが、東日本と西日本では電力の周波数が異なり(50Hz/60Hz)、その間の融通には周波数変換設備が必要で容量にも限りがあります。※5さらに地域内系統の容量にも制約があるため、余剰電力を大消費地へ常に自由に送れるわけではありません。

これらの課題に対し、系統用蓄電池は主に「時間的なギャップ」を埋める役割を担います。昼間に余る電力を貯めて夜間に使う、というかたちで需給の時間差を調整します。

系統用蓄電池の市場をめぐる動き

再生可能エネルギーの拡大に向けて、大規模な蓄電池への需要は構造的に高まっています。実際、系統用蓄電池を電力系統につなぐための接続申込みは近年急増しています ※6

市場規模については、国内の系統用蓄電池(蓄電所)の市場規模は長期的に拡大が見込まれ、当社の試算では、2040年には金額換算で約10兆円規模に達する見込みです※7。再生可能エネルギーの主力電源化に伴い、大規模な蓄電池への投資機会が広がっていく方向性を示すものといえます。

系統用蓄電池の仕組みと構成

ここからは、系統用蓄電池が実際にどのような仕組みで動くのかを見ていきます。

系統用蓄電池の基本的な仕組み

系統用蓄電池の基本は、電力価格が安い時間帯や電力が余っている時間帯に充電し、価格が高い時間帯や電力が不足する時間帯に放電する、という価格差取引(アービトラージ)です。太陽光が豊富な昼間は電力が余りやすく、需要が高まる夕方以降は電力が不足しがちです。この価格差を使い、余剰を吸収しながら、必要なときに供給することで、電力系統の安定化に貢献し、同時に収益を生み出します。

蓄電池は、電源の種類を区別しません。火力・原子力・再生可能エネルギーが混在する系統のなかで、余剰が出れば充電し、不足すれば放電する、というのが基本的な動作です。

「蓄電所」を構成する主な要素

電力系統に接続して機能する大規模な蓄電システム、すなわち「蓄電所」は、主に次の要素で構成されます。電池システム(電気を化学エネルギーとして貯める本体)、PCS(パワーコンディショナー。直流と交流を相互に変換する装置)、変圧器(系統の電圧に合わせて変換する装置)、制御システム(充放電のタイミングなど全体を管理する装置)です。

蓄電池は直流(DC)で電気を貯めますが、電力系統や需要家側は交流(AC)で動いています。そのため、充電時は交流から直流へ、放電時は直流から交流へ変換する必要があり、ここでPCSが重要な役割を果たします。パワーエックスは、こうした蓄電所を構成する電池・PCS・変圧器を含めて自社で開発・製造し、統合したソリューションとして供給しているメーカーです。

出力(kW)と容量(kWh)の違い

系統用蓄電池を理解するうえで、出力と容量の違いは基本かつ重要です。出力(kW・MW)は瞬間的にどれだけの電力を出し入れできるかを表し、容量(kWh・MWh)はどれだけの電力量を貯められるかを表します。たとえば出力20MW・容量80MWhの蓄電所は、フル出力で約4時間放電し続けられる計算になり、これを「4時間相当」などと表現します。投資判断では、この出力と容量の比率(何時間放電できるか)が、参加できる市場や収益の出方に直結します。

系統用蓄電池の主なビジネスモデル

系統用蓄電池が注目される大きな理由が、複数の電力市場から収益を得られる点です。ここでは全体像を簡潔に紹介します。

系統用蓄電池の収益は、単一の方法に依存しません。「卸電力市場」「需給調整市場」「容量市場」という3つの電力市場を組み合わせ、複数の収益を積み上げていきます。この考え方を、レベニュースタッキングと呼びます。

卸電力市場では電力の価格差を利用した取引(アービトラージ)で、需給調整市場では電力の安定に必要な調整力の提供で、容量市場では将来の供給力の確保で、それぞれ収益を得ます。1つの市場に依存せず複数を組み合わせることで、市場環境の変化に対して相対的に強い収益構造を設計できます。

3つの市場それぞれの仕組みや、契約形態・収益シミュレーションの考え方など、収益構造をより詳しく知りたい方は、「系統用蓄電池のビジネスモデル」の記事もあわせてご覧ください。

系統用蓄電池に参入するメリット

系統用蓄電池への参入には、事業として複数のメリットがあります。

補助金の活用による初期投資(CAPEX)の軽減

系統用蓄電池の導入には、国や自治体の補助金制度を活用できる場合があります。初期投資(CAPEX)が高額になりやすい系統用蓄電池事業において、補助金は投資回収の負担を軽減する手段となります。制度は年度ごとに内容が変わるため、最新の公募要件を確認することが重要です。

長期にわたる安定収益を確保しやすい

容量市場による収入や、トーリング型契約による固定価格など、長期にわたって安定した収益を確保しやすい仕組みが整っています。とくに、容量市場の一区分である長期脱炭素電源オークション(LTDA)で落札されれば、固定費水準の容量収入を原則20年間にわたって得られます。

ただし、LTDAには重要な条件があります。落札電源は、卸電力市場や需給調整市場など他市場から得た収益について、原則として約9割をOCCTOへ還付する仕組みになっています。※8つまり「20年間、容量収入に加えて他市場の収益もそのまま得られる」わけではなく、通常のマーチャント運用とは収益構造が大きく異なります。固定費回収の確実性が高まる一方で、他市場収益の大半は手元に残らない点を理解したうえで活用を検討する必要があります。

複数市場でのレベニュースタッキングによる収益機会

前述のとおり、系統用蓄電池は3つの市場を組み合わせて収益を積み上げられます。ある市場の収益が落ち込んでも別の市場で補えるため、市場環境の変化に対して相対的に強い事業構造を設計できます。

比較的多様な業種からの参入が可能

系統用蓄電池は、発電所のように特定の燃料を必要としません。系統に接続でき、必要な条件を満たす用地が確保できれば事業化が可能なため、エネルギー事業者以外の業種からの参入も見られます。

系統用蓄電池に参入する際のリスク・注意点

参入余地が大きい事業である一方、見落とすと事業計画を大きく狂わせるリスクがあります。

初期投資が高額で、系統連系に時間とコストがかかる

系統用蓄電池の導入には、電池・PCS・変圧器・工事などで高額な初期投資が必要です。加えて、電力系統への接続(系統連系)には、技術検討、工事費負担金、相応の工期が発生します。系統の増強が必要になる場合は、コストと期間がさらに膨らみ、場合によっては計画の断念につながることもあります。

とくに重要なのは、「系統に接続できる用地があれば自由に設置できる」とは限らないという点です。むしろ、系統接続の可否や条件が、立地選定における最大級の制約になり得ます。用地選定の段階で、地域ごとの系統の空き状況や増強の必要性を確認しておくことが不可欠です。

電力市場価格の変動・競合参入による収益性低下リスク

卸電力市場や需給調整市場の価格は、需給バランスや気象条件によって変動します。また、参入事業者が増えれば競争が激化し、約定単価が下落する可能性もあります。楽観的な市場価格を前提にせず、レベニュースタッキングを踏まえた保守的なシミュレーションで事業性を検証することが、リスク管理の基本です。

安全管理(火災・熱暴走など)への対応

大規模な蓄電池は、火災や熱暴走のリスクへの備えが欠かせません。設備の安全設計に加え、消防法をはじめとする関連法令への対応、保険、地域の消防との連携などが求められます。これらは事業の前提となる管理コストであり、計画段階から見込んでおく必要があります。

専門人材・運用ノウハウが必要

市場での収益最大化には、電力価格の予測や充放電タイミングの判断、EMSの運用といった専門的なノウハウが欠かせません。自社での内製化はハードルが高く、多くの場合はアグリゲーターなどの外部パートナーを活用するのが一般的です。※9委託コストを踏まえたうえで、運用実績やデータの透明性を慎重に見極めてパートナーを選ぶことが重要です。

参入前に押さえたいサイバーセキュリティ要件(JC-STAR)

近年、参入検討で見落とせなくなっているのが、サイバーセキュリティ要件です。系統用蓄電池は無人で稼働し、電力系統に直接つながる社会インフラであるため、制御システムのセキュリティが事業継続の前提条件になりつつあります。

具体的には、日本のセキュリティ適合評価・ラベリング制度「JC-STAR」(IPA:情報処理推進機構が運用)が、系統連系の技術要件に組み込まれることが決定しています。2025年12月のグリッドコード検討会での決定により、2027年4月(低圧50kW未満は経過措置を経て2027年10月)以降に新規に系統接続される蓄電池については、IP通信を用いる制御システム(PCS、EMS等)にJC-STAR★1を取得した製品を用いることが要件化されます。※10対象は蓄電池本体ではなく、通信機能を持つ制御システムである点がポイントです。

これまでセキュリティ認証は補助金申請などの加点要素にとどまっていましたが、今後は市場参入の前提要件へと位置づけが変わります。要件に適合しない機器を選ぶと、そもそも系統に接続できないリスクがあるため、機器選定の段階で、調達する製品がJC-STAR★1を取得済みか(または取得見込みか)を確認しておくことが重要です。取得状況は、IPAが公開する適合製品リストで確認できます。パワーエックスも、自社製の蓄電システム「Mega Power」シリーズの製品について、2025年9月にJC-STAR★1(レベル1)の適合ラベルを取得しています(適合ラベル登録番号:2025090600000638)。

系統用蓄電池事業に参入するための3ステップ

系統用蓄電池事業への参入は、おおむね次の3つのステップで進みます。

STEP1:プランニング(事業計画の策定・用地選定)

まず、収益シミュレーションを含む事業計画を策定し、用地を選定します。3つの市場それぞれの収益見込みを、楽観・中立・保守の複数シナリオで試算し、どのシナリオでも事業が成立するかを確かめることが重要です。系統への接続可否(系統連系の余地)は、この段階で最優先に確認すべき条件です。

STEP2:導入準備(パートナー選定・資金調達・許認可)

EPC事業者(設計・調達・建設)、O&M事業者(保守管理)、アグリゲーター(市場運用)などのパートナーを選定し、資金調達と必要な許認可の手続きを進めます。契約形態(マーチャント型・トーリング型など)の選択は、資金調達のしやすさにも影響します。系統連系契約、電気事業法上の届出、消防法の手続きなど、複数の法令対応を並行して進める必要があります。

STEP3:導入(建設・試運転・運用開始)

蓄電所を建設し、試運転を経て運用を開始します。運用開始後は、EMSやアグリゲーターと連携しながら3市場での収益最大化を図ります。系統用蓄電池は無人で稼働する社会インフラであるため、前述のサイバーセキュリティ要件への対応も含め、運用体制の質がそのまま収益性と安全性に直結します。

系統用蓄電池事業への参入を検討するなら、パワーエックスへ

系統用蓄電池は、再生可能エネルギーの拡大とエネルギー安全保障という日本の構造的課題に応える、社会的意義の大きいインフラです。同時に、3つの電力市場を組み合わせて収益を得られる事業でもありますが、系統連系の制約、市場価格の変動、劣化や制度変更への対応など、事業の成否を左右する論点も少なくありません。

パワーエックスは、自社製の蓄電池(Mega Power)の製造から、蓄電所AIによる収益最大化、契約パターンを選べる「蓄電所トーリング®」スキームの提供まで、系統用蓄電池ビジネスを一気通貫で支援できる体制を持っています。系統用蓄電池事業への参入を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。

[cta1 title="パワーエックスへ\nお気軽にご相談ください" btn="お問い合わせはこちら" link="/contacts/megapower"]

※ 12022年5月の電気事業法改正による(蓄電所に関する規定の施行は2023年4月)。出力1万kW(10MW)以上の蓄電システムから放電する事業が「発電事業」に位置づけられ、発電事業者としての電力市場参加が可能になった。

※2 資源エネルギー庁「令和6年度(2024年度)エネルギー需給実績(確報)」(2026年4月14日公表)。エネルギー自給率(IEAベース)は2023年度15.3%、2024年度16.3%。発電電力量に占める火力(バイオマスを除く)の割合は約7割。

※3 「第7次エネルギー基本計画」(2025年2月閣議決定)による。

※4 再生可能エネルギーの出力制御の実施状況については、各一般送配電事業者の公表資料を参照。

※5 東日本(50Hz)と西日本(60Hz)の周波数変換設備および地域間連系線の運用容量については、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の公表資料を参照。

※6 資源エネルギー庁「発電等設備における系統アクセス手続きの規律強化について」(2025年12月24日)。系統用蓄電池の契約申込み容量は2025年9月末時点で約2,400万kW、前年比約3.9倍(全国、沖縄を除く)。なお同資料は、接続申込みのなかに事業化の見通しが不透明な案件が多く含まれること、限られた系統容量を実態の伴わない申込みが占有する「空押さえ」が課題となっていることを指摘している。

※7 当社試算。2040年の国内蓄電所容量(系統用蓄電池)は累計291〜337GWh、推定市場規模は約10.1兆円。2030年時点では累計39〜52GWh・年間2,000〜2,800億円規模を見込む。第7次エネルギー基本計画に整合する制約条件を置いた電源構成シミュレーションに基づき、蓄電池システム単価を30,000円/kWhとして算出したシナリオであり、政府目標ではなく、将来の実際の導入量や市場規模を保証するものではない。

※8 長期脱炭素電源オークション(LTDA)の制度による。落札電源は、卸電力市場・需給調整市場等の他市場から得た収益について原則として約9割を電力広域的運営推進機関(OCCTO)へ還付する。制度の詳細はOCCTOの公表資料を参照。

※9 アグリゲーターが複数のリソースを束ねて市場取引を代行する仕組みについては、資源エネルギー庁のERAB/VPP関連資料を参照。

※10 資源エネルギー庁「グリッドコードについて」(2026年2月9日、第7回 次世代電力系統ワーキンググループ 資料2)による。太陽光発電設備および蓄電池を対象に、2027年4月の系統連系技術要件の改定でJC-STAR★1を取得した製品の使用が必須要件となることが決定している。ただし低圧(50kW未満)で連系する製品については、流通在庫を考慮した半年程度の経過措置が置かれ、適用開始は2027年10月。対象は分散型電源が採用する通信機能を有する制御システム(PCS、EMS等)のうち、IP通信を用いる製品。適合製品の取得状況は情報処理推進機構(IPA)が公開する適合製品リストで確認できる。

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